アームチェア・源じろう
W560×D590×H750 SH400
材質:ホワイトアッシュ、タモ
塗装:天然オイル、ワックス
ストーリー
和歌山に住む友人からちょっと面白い雑貨屋を紹介された。
和歌山市駅の近くにある西本ビルという戦前からある3階建ての建物の中にある、器を主に扱う和雑貨屋さんである。
お店の名前は「源じろう」。
趣きあるエントランスをくぐると、高い天井と縦長の窓のある質素な壁に包まれた空間に、古家具を利用した展示棚が並び、そこに厳選された作家の手による和雑貨たちが陳列されている。
そういったものが日常にある生活を提案しているのだ。
このビルの3階はギャラリーになっており、現代美術や写真、絵画、もちろん器の展覧会もあり、地元和歌山の作家がアートを発信していくスペースになっている。
そこに僕が前に作ったBMSチェアを展示してもらったことがあった。
「源じろう」の代表である半田氏が気に入ってくれて、何ヶ月か置いてもらっていたのだ。
その半田氏から久しぶりに連絡があった。今度、このビルの2階をカフェにするので、そこの椅子を作って欲しいと。
BMSのもっとシンプルにしたもので、ローコストでできるもの。
「源じろう」で扱う器たちを実際に使ってもてなすカフェ。
低予算なのは分かっているが、BMSのキモの部分は外したくない。
シンプルながら、座り心地は計算されたものでなければならない。
その両方を考えに入れながらデザインした。
早く効率良く作れることがローコストにつながり、一つの部材に複数の役割を持たせることで、シンプルながら、複雑な座り心地を実現した。
角張ったフレームと平らな座面と背もたれからは堅いイメージを受けるが、座ってみると、その角度と寸法から、意外と姿勢の自由度があることがわかる。
さらに、上体を起こし、浅く腰かけた時と深くかけた時の座面の角度が変わるという仕掛けもしてある。
もちろん、座板はしっかり固定された四角い板であるが。
糸面しかとっていない尖ったエッジは、記憶に残る触感。座った人はなぜか、あらゆるエッジを無意識に触って試している。
座り心地悪そうなこの椅子に何時間も座りながら、おしゃべりしながら、僕はそれを見ながら、「その角どうですか」なんて聞いてみたくなる。