松本家の玄関コンソール
W640×D254×H900
材質:メイプル、ブラックチェリー
塗装:天然オイル、ワックス
ストーリー
「コンソール」、とはあまり聞き慣れない言葉で、それは日本の生活文化に根ざしていない家具であるため、この言葉自体あまり浸透しておらず、また日本的な呼び名もあまりない。あえて言うなら「壁机」。
そう訳してしまうと、イメージが「机」に偏るのか、日本人がデザインしたコンソールは「台」の形をしたものが多い。もともとは西洋の文化に基づくもので、例えば大鏡の前の引き出し付き猫脚キャビネットがコンソール、窓際やエントランスにちょっと花を飾ったりするのがコンソール、扉をガラスにしてショーケース風のコンソール。何もない壁に、ひとつ機能を持たせる家具としてコンソールは存在する。
家のあらゆる壁が、ぎっちり何かで埋まってないと気が済まない日本人にとって、馴染みがないのは仕方がない。
正直、僕もそれをそう呼ぶとは知らなかった。
しかしその、コンソールを作ってください、と注文するお客さんがいたのだ。
その方は以前、ガラスのテーブルを注文してくださった女性で、昔、建築を学んだ経験があったそうで、やはりそういうところで知識がおありなんだろう。
最近建てられた新築の家の玄関がなにか味気なくさびしい気がして、そこにひとつ家具を置きたい、と相談された。
玄関と言えば人が出入りするところで、その家に入ろうとする人は必ず目にする家具となる。
機能性よりも、その家具が放つ空気が重要なのかもしれない。
キャビネットみたいなものでもなく、台でもなく、芳香剤のような家具ってできないだろうか。
そこにある形から連想するイメージを結び付けて、それを見て触れる人が感じる空気へ誘導することって。それなら、あえてそこにないものを持ってきた方が効果的か。あの家にないもの。
僕は記憶をたどっていった。そういえば、
音楽に関するものがなかった気がする。大画面テレビはあってもオーディオセットはない、楽器もなかった。
今僕の周りにいる人たちは、何かしら音楽に関係していて、当たり前のように音楽に関係するものが生活の空間に存在している。それがたとえ音を発しなくてもそれ自体が持つ空気というのがあって、ぽんと部屋の片隅にギターが置いてあるだけで、何か起こりそうな気配がある。
楽器をモチーフにしたデザインで、玄関に置けそうなもので、依頼者からの「印鑑とか入れられる引き出しが欲しい」という要望にも応えられるもの。
そう考えてデザインしたのが今回のこのコンソール。オルガンである。
触れるまでは、四角い台か、箱に脚、にしか見えないが、近付いてみるとその箱の上面には端から端まで通った蝶番が見え、どのように開くかはもちろん誰もが経験しているあのオルガンの蓋を思い出し、操作してみるとまさにあの感触がよみがえる、という仕組み。
引き出しは、蓋を開けなくても引き出せて、開けた時には桟やレールが見えないようにした。
そんな四角い箱と対照的に、脚は柔らかい線を使ってみた。これも触れた時に、おっ、と思わせる工夫がしてある。曲面の中に一本硬いエッジを残してあり、横からの光によって影のつき方に変化が出るように。
この家具が放つ空気が、ちょっとこの家に入るの楽しそう、とお客さんに語りかけてくれますように。