杉のローボード
W1500×D443×H570
材質:杉パネル、黒檀(把手)、桐(ひきだし)
塗装:天然オイル、ワックス
ストーリー
杉でできたものはなぜか、どこかノスタルジックな気配がする。
これだけ家屋や家具に様々な木材が使われるようになって、むしろ今となっては目に触れることが少なくなった、日本を代表する木材の杉。
檜や松とならんで、家の構造に主に利用されるが、外材や、集成材、軽量鉄骨の住宅が普及しはじめた時代から、その消費量は減少してきている。
売れないために撤退する材木商、次々に倒産する製材所、コストに合わず出荷を見あわす林業家、後継者不足、経営難、荒れていく山林。
しかし、日本の風土に合った、性能のよい木材としての杉を、見直そうとする建築家たちが、ここ数年で増えてきている。
それにともない、杉を加工した製品が開発され、流通するようになった。
住宅そのものも、日本の伝統的な工法を用いつつ、現代の生活スタイルに合ったデザインを取り入れている。
ポリ合板やビニールクロス、石油化学製品に見なれた目には、実に危うい家に見えるだろうか。
傷がつきやすく、年々変色し、朽ちていく様が。
その反対では、シックハウス症候群のような、化学物質が身体におよぼす影響が注目され、
自然派住宅というのが合い言葉にもなりつつある。
しかし、そううたっているだけの偽自然派もあったり、様式だけ木造しっくい壁を用い、奇抜な機能性ばっかり売りにしている住宅もある。
今、日本の住環境の価値観が変わろうとする過渡期なのだろうか。
進化の過渡期に、似たような種が無数に生まれ、もっとも優れたものが残っていく。そんな時代にメディアは人々の憧れを煽り、より迷走をさそう。
ほんとうによいものとは何なのか、杉はよいのか、木はよいのか。
ただ、家具を作る立場で僕が言えるのは、杉はとてもよい、ということだ。
ほかのどの木にもない性格を持っている。
ワックスがなじみ、乾き、長年使うと表面は独特のつやが出る。
杉そのものが表面を変化させるようだ。
木目も節も、その変色した膜の下に沈んでいくよう。
そして、ちゃんと朽ちる。
そういうものがいいという、価値観のキーワードは懐かしさ、なのかもしれない。