BMS for Lee(イージーチェア)
W560×D550×H800 SH390
材質:タモ、タモ集成材
塗装:天然オイル、ワックス
ストーリー
ようやく、この椅子があるべき場所へと落ち着くことができた。
めぐりめぐって。
その姿は、そうあることが当然であったかのよう。
願いをこめて作った家具には表情がある。
それがちゃんと写真に写ってる気がする。
写真を撮ってくれたのは、友人のカメラマン松野氏である。
この椅子をデザインしたのは、まだ看板を上げて間もない頃だった。
友人であるLeeさんが、エステサロンを始めるということで、家具一式を注文してくれ、その時に作ったイージーチェアBMSのほかに、実は特別にLeeさんのためにデザインした椅子があった。
しかしそれは製作途中でキャンセルされ、2年近く、工場の片隅で眠っていたのだ。
キャンセルされたからといっても、早く作れば良かったのだが、僕にはどうしてもそんな気になれなかった。
見たくもなかったのである。
Leeさんがこの椅子をキャンセルした理由、それは、店鋪を作るためにお金を使い過ぎて、もう予算がないから。
僕はそういうLeeさんに腹が立った。そしてがっかりした。
たしかに家具のプランのなかにこの椅子は入ってはいたが、これは開業祝いにLeeさんへのプレゼントだからと言っていたはずなのに。
開業準備のどたばたのなかで、僕は友人ではなく、それに関わる様々な業者のなかの一人として扱われていた。
それをまた作る気になったのは、うちの木工教室で習いたいという人が来たからで、その教材としてちょうどいいか、と思ったからだった。
製作途中といっても木取りしただけだったし、それもちょうど2脚分。
一緒に作りながら椅子の仕組みを説明できる。
でまあ、出来上がったこの椅子も、しまっておくにはもったいないので、プロップスフェスティバルに出展したところ、一人のお客さんの目に止まり、オーダーメイドの注文につながった。
そして、そのイベントにLeeさんが現れた。一年ぶりか。
僕はなにも言わなかったが、その椅子を見て、Leeさんは一目でわかったという。
何十脚という椅子のなかで、光って見えたそうだ。
ほんとかよ。
この椅子がやっぱり欲しいという。
最初はプレゼントするつもりでいたが、Leeさんが買い取るというので、3万円だけもらっておいた。
そのひと月後、忘年会しよう、ふぐ食べに行こうというので、期待して行ったら、ワリカンだった。
その時一緒に行ったカメラマンの松野氏が、エステサロンで椅子の写真を撮ってくれた。
松野氏もまた、どたばたに巻き込まれた共通の友人の一人である。
セラピストとカメラマンと家具屋、異色の取り合わせだが、ある場所を発端とする、長い付き合いの、なぜか気のおけない仲間なのだ。