杉のちゃぶだい
W800×D800×H330
脚:折り畳み式
材質:杉
塗装:天然オイル、ワックス
ストーリー
このちゃぶだいを納品する時に写真を撮り忘れ、後ほど依頼者の牧岡さんに、写真を撮って送って欲しいと言ったら、こんなすごい写真を送ってくれた。
あまりにインパクトがあるので、そのまま使用させていただくことにしたのだ。
有名な写真コンテストでグランプリを受賞した作家が、こんな感じの作品を撮っていたが、狙いに狙った挙げ句、ここに到達する作家もいれば、何も考えず、素人が撮ればそうなることもある。
かたや邪心のかたまり、かたや無心。
何をよしとするかは、用いる者と、それを評価する者によるというわけである。
彼を一流写真作家としてまつりあげた評論家やメディアは、次、また次と、新たなネタを探して、はいずりまわる。
情報を操作して生きながらえているのだから、実際とか、直接なんてことは彼等にとって無価値なのか。
イメージだけで生きて死ぬ人の、人生の希薄さを、むしろ僕は恐れる。
この写真は、作品として評価はされない。
またそういう意図では撮られていない。
しかしその妙なリアルさが面白い。
と、かの作家を評価した評論家もそう言っていたような気がする。
「昼間に働けるってしあわせなんだよ」
このちゃぶだいを取り来た時、牧岡さんはそう言った。
「みんな当たり前と思ってることが、ね」
工場の前のカウンターに座り、木の端切れを磨きながら、牧岡さんは仕事の話をしてくれた。
磨いているのは、おまけというか、おみやげに、デスクの上に置くカード立てを作っているのだ。
材はチェリーだった。
夜勤明けだった。
彼は製造機械のエンジニアで、新しい機械の設置やメンテナンスにおいて製品をチェックする立場にあり、ひとつの工場の機械をチェックしはじめると、何日も交代制で24時間監視しなければならないという。
夜勤にあたれば何日も夜勤が続き、明るくなる前に帰って宿舎で眠り、暗くなってから工場へ向かい、入れば外へ出ることもない。
昼勤に変わった時、つくづくそう思うのだそうだ。
牧岡さんは楽しそうに、また、のめりこんで木を磨いている。
その話の続きは特になかったが、こうして二人で、カウンター越しによく晴れた田んぼの景色を眺めながら、風に吹かれながらのんびり話をしていると、ここ最近の慌ただしさなんかがすべて報われていく気さえしたのだ。
昼間に働けるだけでしあわせなら、ほかの何に文句が言えるだろう。
現実らしさをおもちゃにして売っている人には、現実との関係を断ち切られるような気がして悩む人のことはわかるまい。
またそれが当たり前になってしまっては。