ヘラ
ストーリー
木工作家がよく、端材を使って小物を作っているのを目にする。
スプーン、フォーク、ペーパーナイフ、箸置き、コースター。
僕もまた、そんなようなものを作ってみようと思った。
しかし、スプーンやペーパーナイフを作ってしまっては、買う人はそれをスプーンとして買うのであり、僕の作品として買ってくれるのではない。
作り手も、よいスプーン、よいペーパーナイフを作ろうとするので、そのフォルムは、スプーンとしてどうか、ペーパーナイフとしてどうかというところで評価され、高いだの、安いだの、作り手を無視したところで語られてしまう。
そうではない、と思った。
こんな小さなものでも作品として作るならば、使い方を限定された他の何かに合わせるよりも、使い方を問いかける道具にしたいと思った。
何に使うのか分からない、結局何にも使わない、
けど持ってみると何かに使えそうで欲しくなる。
そんなものに1000円払えるのか。
それが、今までやった展示会で、一番よく売れるのがこのヘラなのである。
もちろん、成形にはかなり本気で、仕上げも僕が作る家具と同じ仕上げを施すので、触った感触はSIGNの家具そのもの。
つまり、SIGNの家具の手触りを知るためのテストピースともいえる。
ある展示会で、杖をついたおばあちゃんが訪ねて来られて、一本のヘラを手に取り、
「ああ、癒されるわあ…」
といって5、6本まとめ買いしていった。
まさに、その言葉待ってました!
それがSIGN名物「ヘラ」なのである。