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Category Archive for '森が見た夢'

森が見た夢:終章

轟々と篝火が風に煽られて燃え上がる。 火の粉の混じった煙が渦を巻きながら横に流れていく。 百年杉の梢が大きくしなやかに、それぞれのリズムで揺れているその上には、あの弓張月が静かにとどまっていた。 よく見ると幹もゆっくりと […]

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章と同級生だった布屋の裕美は大学卒業後、建築専門誌を発行する出版社に就職していた。 その春から開校するという新しい小中学校へ取材に行くと、それは学校建築としては今までに見たことのないデザインの校舎だった。その入り口を入っ […]

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森が見た夢:4-5

「そのあと、三人で食事をしながら話をしたんだ。  大学を卒業してから、就職して今に至るまでのこと。  そして、あの時感じていた言葉にできない欲求について。  当時、仕事に関してはなにも不満とかはなかったけど、いつも何かに […]

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森が見た夢:4-4

彼の祖父がいつもそうしていたように、章はその場所から山と空を眺めていた。 夕暮れの、夜に向かって刻々と変わっていく空の色。風はなく、空全体が波のうねりのような音を発している。山の向こう、遠い街の騒音が、空の高みを往来する […]

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森が見た夢:4-3

「ただいまー… 」 玄関から入ってすぐに気づいた家の匂い。懐かしいというより、知らない匂い。 生まれ育った家がこんな匂いだったことを知らなかった。 ここで暮らしていたときには、薪ストーブが燃えている匂いやその日の夕飯が何 […]

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森が見た夢:4-2

池本校長の話を聞きながら、彼女は今いるこの校舎の構成をもう一度思い返していた。そこに子どもたちがいることを思い浮かべ、過ごす時間のことを。 大きな窓の回廊沿いに置かれたベンチに、本棚の前に、教室と呼ばれる空間で先生と話し […]

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森が見た夢:4-1

「あ…  なんだか、懐かしい匂い…」 その建物の中に入ってすぐに彼女は立ち止まり、そこから見える景色をゆっくりと見渡した。円形と言ってもいいくらいの多角形をした建物の、外部に面する壁面はすべてガラス張りになっており、それ […]

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第1章2節の続き。章と彼の友人はアーケード街を人混みをかき分けながら歩いていく。通りの両側にある店を眺めながら、章はその明るさになぜか違和感を感じていた。明るさとはそれぞれの店が放つ照明の光でもあり、その光にこめられたメ […]

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森が見た夢:3-4

友人は少しうつむいたまま僕の話が終わるのを待っているようだった。手に持っていた空のグラスをカウンターに置くと、横目で僕を見ながら長く息を吐いた。 「今の話を聞いていろいろ言いたいことはあるが、俺から見ればお前もそっち側の […]

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森が見た夢:3-3

「アキラくんの仕事って、たしか繊維の会社だったよね。ENGIだっけ」 そう言いながら女将さんは、僕らの前の鉄板に油壺で油を薄く引き、焼き上げたばかりのお好み焼きを運んできた。 「はい。木から糸を紡いで編んだり織ったりして […]

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森が見た夢:3-2

そう言われても。 友人は僕が何か相談したいことがあると思っているらしいが、別にそんなことがあるわけじゃなかった。 だけど、彼が察するように最近僕は何かに苛立っているというか、満たされない気持ちがあることは確かだ。 仕事に […]

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森が見た夢:3-1

アーケード街はその両側に色々な店が並んでいて、それぞれの光を放っていた。飲食店、ファッションブランド店、楽器店、書店、靴店、眼鏡店、ドラッグストア。ひとつひとつはそれぞれが主張する光なのだろうけど、混じり合うとぼんやりし […]

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その夜の翌朝、老人はいつもの場所に立ち山を眺めていた。 そこへ『浩さん』と呼ばれる男がやって来る。浩さんは村の鍛冶屋だった。老人から頼まれていた林業に使う道具である鳶口を届けに来たのだった。浩さんは老人のことを『信さん』 […]

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森が見た夢:2-5

「父さん… ただいま。今日は少し早かったんだ。これからはこの時間には帰れるようになる」 食卓に向かって歩いてくる老人が席に着くまでに、彼は父に伝えようとする説明を言い終えた。 「そうか」老人は彼の斜向かいの席に座り、「香 […]

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森が見た夢:2-4

彼が座っている椅子は、家具職人でもある彼の父親が作ったものだった。素朴でありながら無骨さはなく、簡単な数式と記号によって生み出されたような形をしていた。またそれは一人の職人の手によるものというより、様式を感じさせる説得力 […]

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森が見た夢:2-3

「だけど、算数は苦手かな。ずっと数字を見てると頭が痛くなっちゃう」 「へえ、そうなんだ。得意なのかと思ってた」 「ううん、本当はだめの。がんばってるだけ… あきらくんは算数得意だよね」 「うん、まあ、好きかな」 「いいな […]

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森が見た夢:2-2

道の両脇には畑があって、朝から野良仕事をする人の姿が見える。少年の背中でかたかたと鳴るランドセルの音が通り過ぎて行く。そのリズムから子どもの歩幅を感じ取れた。 坂道の上から聞こえる楽しそうな老人たちの話し声は次第に遠くな […]

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森が見た夢:2-1

「よーう、信さんよう」 谷に響き渡る大きな声とともに一人の男が坂道を登ってくる。 朝焼けから赤みが消え、山の峰から昇り始めた太陽が朝露を一層輝かせる。早朝、また老人はあの場所に立っていた。坂道を登ってくる男は老人を見つけ […]

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その夜、林業を主産業とする、とある山村で神事が行われていた。 その年の伐採期の終わりに、森の入り口で篝火をたき、その前で村の総代が能を舞うのである。 それを見守る三役とともに一人の少年がそれを見ていた。山上の空にはその出 […]

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森が見た夢:1-4

その村の西側の山に日が沈み夜に変わるまでの時間を、老人はいつも決まった場所に立って見届けるのを習慣にしていた。 老人の家は谷を見下ろす山の中腹にあった。その場所から見渡せる山々はこの老人が管理してきたものだった。また、こ […]

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森が見た夢:1-3

「室長、そろそろ交代のお時間ですよ」 その女性の声を聞いて彼ははっと我に帰った。目の前のモニターと操作パネルに集中し、意識は化学プラントのパイプラインの中を走り巡っていたからだ。 「ああ、ほんとだね。もうこんな時間だ」 […]

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森が見た夢:1-2

誰かに声をかけられたような気がして、見上げると目の前のビルの向こうがぼんやりと明るかった。 距離感なく混ざり合った街の騒音も、聞き分けようとすればひとつひとつが何から発せられた音なのかわかる気がしたが、二つ三つ試したとこ […]

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森が見た夢:1-1

二つの篝火の光が森を照らしていた。 その篝火の前で一人の老人が能を舞っている。 その場所を囲むように、同じ生成りの装束を着た数人の男が立っていた。 低く唸るような老人の声と、地面を擦る乾いた足音が聞こえてくる。 男たちか […]

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