森が見た夢:4章あらすじ
2023 年 3 月 27 日 by SIGN
章と同級生だった布屋の裕美は大学卒業後、建築専門誌を発行する出版社に就職していた。
その春から開校するという新しい小中学校へ取材に行くと、それは学校建築としては今までに見たことのないデザインの校舎だった。その入り口を入ってすぐに裕美は足を止める。その校舎内の広々とした空間に圧倒されたこともあるが、なぜかそこに『懐かしい匂い』を感じたからだった。
そして裕美は、そこにあった学童机に押してあった焼印に目を止める。それは章の祖父の工房名だった。
この校舎におけるさまざまな要素の中でも、校長がこだわったという学童机は章の祖父に依頼して作られたものだった。
その話を聞いて裕美は驚いた。数日前、母親からかかってきた電話で章が村に戻ったことを聞いていた。もしかしたら章もこの家具に関わっているかもしれないと裕美は思った。
この学校に関連した追加取材として、裕美は村に帰り章の話を聞くことにした。
最初は林業と家具製作への思いを聞くつもりだったのが、再会した章と話すうちに「なぜ」村に戻ろうと思ったのか、そうしたくなったのかに話が変わっていき、取材よりも章を理解しようとする裕美の気持ちが優っていく。そして章は裕美にこの村での暮らしが自分にとっての生き方でありたいと打ち明ける。
その一年前、章は祖父に会うために実家へ帰ってきた。夜遅くにならないと帰らない祖父を待つ間、章は母親と父親と三人で食事をしながら、就職してから都会での生活で感じたことや、自分が村に戻り祖父に会って話したい理由を打ち明けた。
その話を聞いた両親は全面的に彼の気持ちを受け入れ、彼が自分で進む道を見つけるまでここにいればいいと言った。
そして遅れて帰ってきた章の祖父はその話を聞いて、「いいんじゃないか」と言ったあと、戻る前提で話を進め、最後に「一番自分に合ったものを主にしなさい」と章に言った。
それからのち、章は会社を辞めて村に戻り、祖父に弟子入りのような形で林業と家具製作を学び、あの学童机は章の家具職人としての最初の仕事となったのだった。