友人は少しうつむいたまま僕の話が終わるのを待っているようだった。手に持っていた空のグラスをカウンターに置くと、横目で僕を見ながら長く息を吐いた。
「今の話を聞いていろいろ言いたいことはあるが、俺から見ればお前もそっち側の人間だよ」
友人がそう言った時、僕のなかで何かが変わった気がした。これから彼が話す内容にすべて同意できる、そんな安堵感すら感じていた。言葉の意味は今までの僕の話を覆すものなのに。
「学生時代、お前とヒロキは、俺とは別の世界に生きているように感じてたよ。同じものを見ても同じ音楽を聞いても、まったく違うことを読み取っているような。
そんな二人が、この世界に二人しかいないような場所へ旅をしに行くって。なんでそんなことをしたいのか俺には理解できなかったけど、なんかすげーって思ったよ。
お前さ、わかるとかわからないとか言うけど、人間て二通りあると思うんだ。わからないことがあると、その意味や、なぜそうなのかって理由や、なぜそうなってるかって法則を探して、考えて、それが見つかればそれについてわかったことにする。もしくは法則に従うことがわかってる状態だと言って安心する。だけどそれは誰かが考えた、それに与えたルールだ、ロジックだよ。
だけどそうじゃないところで理解する人間もいる。そこにそのようにあるってことを受け入れるような理解の仕方。その意味も、法則も必要なくて、それの名前すら知らなくていい、わかり方。
言葉で誰かに伝えようとするから、どうしても説明はロジカルになる。自分はわかっていると思われたいからルールを知りたがる。知らなければ拒絶されることもあり得る世界で生きてれば、そうじゃないやつも学習してわかったふりしてることもあるだろ。
ほんとはさ、どっちがいいとか優れてるとかいう話じゃないんだよ。
最近のお前を見ていて、少し危うい気がしたんだ。だから毎日誘ってた。ふりをすることに疲れてるんじゃないのか。もういいよ、やりたいことやれよ。社会人になってからのアキラって、いい子すぎんだよ」
まったく、こんなこと言うやつだっけ。
彼を待っていたときに聞こえた声がどこからだったのか、今はわかる気がした。
「わっかたよ。ありがとう。
俺のやりたいこと、たしかにあるんだけど今は言葉にしないでおく。
今度、じいちゃんに会ってくるよ。どうするかはそれから決める」