おかあさんの仕事机/パソコンデスク
W1200×D700×H680
材質:メイプル、ウォルナット
塗装:天然オイル、ワックス
ストーリー
僕が尊敬するある先輩から、百年後に勝負しよう、と言われたことがあった。
自分が作る家具は、百年もつ作り方をしているし、
その間ずっと使う人に愛されるようにデザインを考えている、という。
その先輩とは10年以上のキャリアの差があるが、百年後にはその差はほぼ等しくなる。
そのときに、僕らの作った家具がどれだけ残っているか、また世の中にどれほど自分の名が知られているのか、
また、使う人が何代か変わり、それでも、いやそうやって受け継がれる毎に愛され続ける家具たりうるのか。
それを競おうというのだ。
壮大でありながら、まったく木工家として当たり前の、持つべき心構えである。
このデスクはDTPの仕事をされている女性からの注文だった。
会社のオフィスでも仕事はするが、在宅で仕事をすることが多いという。
主に広報誌などの編集をされているそうだが、レイアウトデザインだけでなく、
クライアントからの情報を要約し、原稿を書くこともあるらしい。
作業スペースはLDKの一部を共有しているが、仕事と生活の境界線としても、特別なデスクが必要だったのだ。
しかし、
最初に話を聞いたのは、とあるイベント会場でのことだった。
福祉関係の仕事をされているご主人とは前からの知り合いで、そのイベントでは音響関係でお世話になっていた。
そこに奥様であるその女性に声をかけられ、いつかデスクをお願いしたい、と言われた。
その意志を伝えようとする声は嬉々としていて、まるで学生の様に若々しい印象を僕は感じていた。
それからしばらくして、打ち合わせにお宅へ伺った時はちょうどお仕事中だったのか、
ご挨拶した時にあわせた目に、ピンと張りつめたものがあった。
行く前から考えていたデスクのイメージは少しここで補正すべきだなと思いつつ、
お話をうかがいながら、デスクを置く部屋を見回していた。
そこへ、彼女の携帯に電話がかかってきた。
インディーズバンドで音楽活動している息子からだった。
役所での手続きで分からないことがあって質問する息子への応対は、それまでの二つの印象とまた異なり、まさに母親であった。
そのことがあってまた、僕のフォーカスはシフトしていくのだが、でもどうやら、
オーダーメイドで高価になったとしても、特別なデスクを購入したいと思う動機のひとつに、
自分が使ったものを自分の子どもに、そして孫へと受け継いでいけるものが欲しいということがあったようだ。
まさにそれが一番のテーマだと僕は思った。
注文には材質とサイズの指定があったが、デザインはおまかせ。
僕はシンプルなデスクでありながら、やはりどこか女性を感じさせるものにしたかったし、
このデスクを受け継いだ息子に母親を意識させるものにしたかったし、
また、その積み重なっていく時間に耐える構造も重要だと思った。
自分がこの世からいなくなっても、誰かに、
確かにそこに生きていたという印を残す。
それってSIGNじゃないか。