退院してから何度目の通院だろう。
先生の「クーパー」という言葉にドキッとするようになった。
もう痛いのは嫌だ。ほんとに。
先生は説明してくれる。なぜ肉を切り取る必要があるのかと。
死にかけている肉は放っておくと腐り、快復を妨げるから。
わかるけど、腐った肉は生きている肉と繋がっている。それを切り離す痛みは怪我をした時の痛みとさして変わらない。
いったい何の罰かと思う。ただ、先生の説明を反芻しそれに耐える。
診察が終わり会計をしていると、僕の横に見覚えのある人が立っていた。
僕の母校の教授だった。
受診の受付をしていたその人は20数年前に僕に作品指導をしてくれた先生だった。たしかまだ現役で教授をされているはず。
なんでこんなところで。
一般的には厳しいという評価の先生だったが、僕の印象ではあまり解説や指導を受けた記憶がなく、講評の時に僕はただ言い負けまいとしていたような気がする。
声をかけようかと思ったが、僕のことを覚えているはずもなく、写真の話になったところできっと食違う。だからやめた。
午後から木工を教えに大学へ。2回目の授業だった。
角材に墨付けをさせて延々ノコをひかせる。
手道具でほぞ組みを完成させるには、まず精度の高い加工が必要。まずそれができるようにならなければ構造も何もない。
なぜそれをするのか、僕が彼等にした説明は「足の裏で感じること」だった。