幕板なしのウォルナットテーブル
W1495×D850×H720
材質:ウォルナット
塗装:オイル、ワックス
ストーリー
「柱があって梁が架かっていれば、それは橋なんです。」
納品したてのテーブルをはさんで、依頼者である新婚のご夫婦と一緒に昼食をごちそうになった。
その食事中の会話の中で、ご主人が僕に言った言葉だった。
ご主人は橋の設計をする会社に勤めておられ、実際に橋の設計をされている方だった。打ち合わせでご夫婦そろってSIGNへ来られた時にその話を聞き、手掛けられたいくつかのお仕事のなかにはSIGNのすぐ近くの高架道路もあった。
もの静かで口数の少ない方だったが、橋の話をするときにはその仕事へのプライドを感じ、情熱と、また単純に橋が好きなことも伝わってきた。
僕も橋が好きだったから。
専ら僕の場合は渡ることが好きなのだが。
今回のご注文はもともとは奥さんからだった。
結婚式の数カ月前にお話をいただき、新居となるリフォームしたばかりのマンションにお伺いして、テーブルに関するイメージや寸法や材の希望を聞かせていただいた。
それが、幕板なしのシンプルなデザインで材はウォルナットだったのだ。
幕板がないということは、脚と天板の接合部分に力が集中し、強度的には不安があった。材自体の反りやたわみも考えると、けっして有効なデザインとは言い難い。だけど、その希望をかなえるために考えなければならないと思った。
それ用の金物を使ってしまえばイージーに解決することだったのかもしれない。強度や変形のことなど考えず、そういうものだと言って。
とにかく僕はその話を持ち帰り、アイデアを練っていた。
その後ひとつの結論が出かけた頃、結婚式を終えたこのご夫婦がSIGNへ来てくださった。
最初の打ち合わせでは奥さん一人だったので、ご主人とは初対面だった。
僕は考えたアイデアを説明し、そのほかのディテールに関する情報が欲しくて何気なくご主人のお仕事について訪ねてみた。それを聞くまでは、奥さんの希望通りに話は進み、ご主人も「彼女が気に入るように」という姿勢でおられたので、そこまで話を広げることも必要と感じなかったのだが、奥さんの時々ご主人にうかがうような素振りを見て、話を少し振ってみたのだ。
するとびっくり、構造計算のプロだったのだ。言わずもがな奥さんの希望のデザインの強度的な問題については十分理解しておられるにも関わらず、それでも「彼女が気に入るように」とおっしゃる。
このとき僕は奥さんの希望を優先しつつ、ご主人のことも織り込みたいと思い、デザインを考え直すことにした。
4本の脚が独立して天板と接合するのではなく、短辺の2本を反り止めを兼ねた補強部材でつなぎ、さらにそれを天板裏に溝を彫って埋め込んだ。この部材の見た目の厚みを減らして天板裏の出っ張りを少なくするためと、接合の強度を上げるのがねらいだった。
フォルムのイメージは橋脚。完成して下から覗くと、幕板のないテーブルは足下の空間に開放感があった。
奥さんが求めていたのはこれだったのか。
反りやたわみに関してはウォルナットの性能を信じようと思う。縮むことに対しての配慮は一応しておいた。
角を丸めて欲しいということだったので、天板のコーナーは丸くカットし、エッジも表と裏で違うアールの曲面の面取りをしてある。
これは、家族が増えた時の配慮ということ。
設置を終えた時に、奥さんに「食事をしていってください」と言われた。
初めてこのテーブルを使うのに、僕を交えて食事をしようと、ご主人ともそういう話になっていたらしい。
テーブルに合わせて椅子は買うつもりなのでとりあえず、と言いながらダイニングチェアが3脚並べられ、僕の作ったテーブルに3人分の新妻の手料理が並べられた。
食事をしながらまた橋の話をした。ご主人は「家具と違って橋のデザインでは美しさや難しいことを描いたりすることはないんです。」と言いながら、「山間の谷に架かる橋の橋脚の細いアーチのラインがほんとにきれいなんです。」などと言ったりもする。
それを横で、「私が見たらどれもコンクリートのかたまり」と無邪気に笑う新妻。
経年変化で色が次第に明るくなっていくウォルナット。
一緒に成長していきたいと言う二人とともに歳をとる家具であって欲しい。