枝香庵の収納ベンチ
W450×D560×H550 SH400(一人がけ)
W900×D560×H550 SH400(二人がけ)
材質:タモ、ウレタンクッション、ビニールレザー
塗装:柿渋、ワックス
ストーリー
以前作品展示台を納めさせていただいた画廊から、応接室に置く収納ベンチをご注文いただいた。
東京の銀座にある「ギャラリー枝香庵」。銀座駅前にあるビルの8階から屋上まで、テラスとペントハウスがあるギャラリーだった。
今回の収納ベンチは、その倉庫兼応接室となっているペントハウスに置くもので、その部屋の用途が物語るように、接客時はソファーになり、もうひとつの機能としてその椅子自体に収納機能があるものがご希望だった。
デザインに関しては、寸法等いくつか指示があったものの、ほとんどはこちらに任せられていた。
先方からの指示で一番重要と思われたのは、展示台と同じ柿渋で仕上げるということだった。
この二つの機能をどのように融合させるのか。普通に考えれば「箱に座る」なのだが、そこに生じる意味は「狭苦しい倉庫ですが、どうぞお座り下さい」となってしまう。そうではなく、二つの機能を二つの顔として存在させたい。
椅子として使用する時に、収納機能を持たせたために座り心地が犠牲になっていてはいけない。収納機能をあえて主張するようなデザインもしたくない。収納容積を最大限確保しつつも、四つ脚であり、蹴込みのスペースを設けて踵が箱に当たらないように。また小さくても背もたれが欲しい。
二つの機能が共有するエリアを持ちながら、それぞれの用途においてお互いの機能を感じさせない、デザイン上の分離をどうにかしたかった。
座面は出来るだけ革に近い質感のビニールレザー選んで張り、厚みを80にし、一人分の面積は小さいものの、ソファーのようなゆったりとかけられる座り心地を目指した。硬さと沈むスピードも計算されている。
四つの脚が箱から飛び出しているのは、蹴込みスペースの確保のため。そしてこの画廊の名前「枝香庵」から連想される、「侘び寂び」の空気を出したくて、木戸をイメージした鏡板と貫と脚の取り合いに、収納空間内部へとつながる「隙間」を開けておいた。ちょうどこの画廊のあるビルの入り口が、ビルの間の細い路地を入っていった奥のエレベーターであることにも共通性を感じさせるように。
ご希望だった柿渋の色も「わびさび」である。
そして、収納として使う時には、座面のクッションを取り外すようにし、この危うい形の背もたれ笠木に立てかけて置けるようにした。
ドアのように開く構造よりは省スペースで、なにより座面を外してしまうと箱にしか見えず、笠木も背もたれには決して見えない。
さて、その後その中に何が入っているのか。こっそり覗きに行ってみたくなる。