轟々と篝火が風に煽られて燃え上がる。
火の粉の混じった煙が渦を巻きながら横に流れていく。
百年杉の梢が大きくしなやかに、それぞれのリズムで揺れているその上には、あの弓張月が静かにとどまっていた。
よく見ると幹もゆっくりと揺れていて、炎に照らされ暗闇から浮かび上がる空間そのものが、揺らいでいるかのように錯覚する。
円陣を作る男たちの装束がはためく音、薪のはぜる音は連続し、それに負けじと風に流されまいと男たちは謡の声を張り上げる。
その声に呼応し、円陣の中で舞うシテの動きも大きく激しくなっていく。
さらにその舞に合わせて、謡の声も増していくようだった。
やがて物語は終盤を迎え、動きは次第に緩やかになり、シテはゆっくりと円陣の外に出て男たちに背を向けた。
腕を広げ静止した後ろ姿は、まだ呼吸に合わせてわずかに肩が上下している。
謡の声もやがて地頭一人になり、その最後の一音が風に消えていくまで、シテの男は木々に向かい山の頂の方向を見上げていた。
この村の山守たちが執り行う伐採期最後の神事にも、代替わりの時期が訪れていた。
この風のせいもあり、前年までの幽玄な神事とはまた趣を異にするものではあったが、円陣の外から見守る老人たちの目には、吟味するというより次の世代への羨望すら感じられた。
そして彼は森に向かい、ゆっくりとその闇の中に消えていった。
森が見た夢:完