森が見た夢:2章あらすじ
2023 年 1 月 7 日 by SIGN
その夜の翌朝、老人はいつもの場所に立ち山を眺めていた。
そこへ『浩さん』と呼ばれる男がやって来る。浩さんは村の鍛冶屋だった。老人から頼まれていた林業に使う道具である鳶口を届けに来たのだった。浩さんは老人のことを『信さん』と呼ぶことから、昔からの親しい付き合いのようである。
この村の人々は林業と兼業で様々なものづくりの職人をしていた。村のメインストリートはそんな職業の店が連なる職人通りだった。
母親に見送られながら家から出てきた少年『章』は浩さん達に挨拶した後、小学校へと続く職人通りの坂道を下っていく。上級生である章は下級生達を迎えに行きながら登校するのだった。その通りの並びにある『布屋』の娘、同級生の『裕美』と歩く二人きりの僅かな時間に、二人の淡い想いを感じる。裕美の言葉にはなぜか、章に対する暗示的な意味があるように思えた。
少年の父である『貴』はそんな二人を見届けながら、坂道を下り車で県庁へと向かう。彼の仕事である新しいエネルギー供給システムを導入した自治体の報告会議に出席するためだった。しかしその道すがら貴の心は憂鬱だった。運転しながら昨夜の父との会話が頭の中を何度も巡る。あの時、どう言えば良かったのか。
昨夜、シフトの変更でいつもより早く家に着いた貴は、妻の『香純』が作る料理に心がほぐれていくようだった。話をしながら香純と交わす酒も久しぶりで、普段は言わない仕事への迷いも彼女に打ち明けていた。
そこへ貴の父である老人が部屋に入ってきて彼の向かいに座り、彼の仕事に関する質問をした。貴はそれに正しく答えようとすればするほど、老人が自分に伝えようとすることから、また本当の自分の気持ちからも逸れていくような気がした。
いつの間にか染み付いてしまった、立場によって話す話し方。常識的な価値観はいつから自分の鎧や武器になってしまったのか。そしてその時説き伏せようとした相手はそれらから一番かけ離れた人物であった。