二つの篝火の光が森を照らしていた。
その篝火の前で一人の老人が能を舞っている。
その場所を囲むように、同じ生成りの装束を着た数人の男が立っていた。
低く唸るような老人の声と、地面を擦る乾いた足音が聞こえてくる。
男たちから少し離れて、一人の少年がじっとそれを見ていた。
見上げると森の上に月が出ていた。上弦の月、半月になる一日前の、弓張月と名付けられた月だった。
その光景はまるで森が見た夢のようだった。
そこは樹齢百年になる杉が整然と並ぶ人工林だった。手入れが行き届いた森は、どの方向に目を向けても木と木の間隔に均一性があり、篝火の光が届かない暗闇のずっと奥までその密度は保たれているように感じられた。
時折、薪のはぜる音がどきっとする音量で森に響き渡る。篝火の薪も杉のようだ。粗く割った大きめの薪が、その瞬間赤い火の粉を撒き散らす。
もしこの永遠に続くとも思える時間に終わりを告げるものがあるとしたら、その炎に違いない。