このベンチが射す原点
2015 年 12 月 29 日 by SIGN
僕が修行中に作らせてもらったチャペルベンチの補修をさせてもらった。
これで何度目の補修になるだろうか。長年使っていただいている間に何度かの改修もした。脚の裏にキャスターを付けたり、背中に棚を付けたり。
今回は前回の補修からずいぶん時間が経っていて、見るとかなりの傷が付いていた。点傷、引っかき傷、欠けている部分もありこれを現場で補修するとなるとパテ埋めするしかないか。
また以前取り付けたロック付きのキャスターはそのロックがバカになっていて、交換が必要。
なぜキャスターが必要だったかというと、このチャペルは写真館の中にあり、スタジオでもある。式も挙げられるが式だけを実演して撮影することもあるし、家族や友人と記念撮影もできる。その際、祭壇前のベンチは素早く移動させなければならず、女性スタッフ一人でも簡単に動かせるようにベンチの片側にキャスターを取り付けたのだ。しかし便利になったようで実際は3〜4人掛けの荷重を支えるので、キャスターに付いたロックには負担がかかる。何年もよくもったと思う。
まず作業は浅い点傷と引っかき傷をスチームアイロンでできるだけ復元させることからはじまり、キャスター交換、欠けた部分のパテ盛りをして一日。翌日その部分を削って整形し、点傷などの塗装が剥がれた部分と一緒に塗装をした。
膨大なスポッティングをしながら、この家具が示す可能性を感じていた。まだ言葉にならないアイデアが、浮かんできそうになってはまた消えていく。なんだろうこの感じ。
杉で作られたベンチは傷がつきやすく、作った当初はこんなに長く使われるものとは思わなかった。新装開店に向け急ぎの仕事だったので簡単にできるものとしてデザインした気がする。
なのに傷はつくけど壊れることもなく、むしろその傷が重なり合い何度も補修を繰り返すことで、また違った存在感が現れつつあった。その傷を肯定するような、繰り返し補修することがその価値を高めていくような。杉材を使った家具の可能性はその価値観を理解させ広めていくような試みにあるのかもしれない。
このお店の仕事納めは昨日で、今日はこのためにわざわざ店長が店を開けてくれた。
指定された時間一杯、ベンチがぶつかって付いた柱の傷まで補修して作業を終えた。
聞いても多分買い換える余裕がないと言われそうだけど、お客さんにとって体に触れる家具に、大事な思い出のワンシーンになぜこれを使い続けるのか、他に理由があるのか、今度また聞いてみたい。
「傷を肯定するような、繰り返し補修することがその価値を高めていく」
激しく同意!
家のリビングも杉なので傷々ですがそれも気に入ってまーす。
それにしてもいい仕事してますね。
僕の研究課題です。
あの感じ、それが何なのかちゃんと説明できるようになれば次のステージに行けそうです。
最初から使い込まれたような物が好きな人もいますし、新しくてもずっとそこにあったような存在感を求める人もいます。
TRUCKの黄瀬さんは”NEST”という言葉で表現されてます。