ジグザグチェアの見積のために
2013 年 8 月 19 日 by SIGN
テレビラックの一件と夏の休暇などなどでお待たせしていた仕事に取りかかる。
畿央大学の先生からまたリートフェルトの椅子の研究で、先生がリデザインされた作品の制作依頼だ。
今回はあの有名な「ジグザグチェア」を作る。
もともとのオリジナルが木工における常識を覆すような形状をしており、重力と構造力学にあえて抗うようなメッセージを持った作品である。
先生から預かった図面には、それをさらに強調するようなプランがあった。
そこには前回の「赤と青の椅子」のリデザインのような木工技術の見せ場はほとんどなく、造形技術というか建築現場経験者の知識も要する彫刻作品でありながら、それが彫刻家の仕事と違うのは家具屋として一発勝負で作り直しができないところだろうか。
まずは見積もりということで、今日それに使う鉄板のパーツについて鉄工所の友人のところに相談に行ったのだが、きっと大学に提出する書類には一脚を作る値段しか書き込まないだろう。
かなり危険度の高い仕事だ。
鉄の相談に行ったのは開業前からの友人で、うちの看板を作ってくれた江原製作所のエバちゃん。今は独立して「La tierra」というブランドで家具などの金物や鉄板加工品を別注で製作する会社の社長だ。
出会った頃は削った鉄粉と油で真っ黒になっていた彼が、今はどでかいコンピューター制御のレーザーで鉄板を切り抜く機械の前でオペレーションしている。その機械の導入と彼の独立が会社にとっても方向転換になったことは、工場の雰囲気から感じられた。
作業をしながらも会話ができるくらいの音をたてながら、機械はたんたんと鉄板を切り抜いていた。
レーザーが鉄板を貫通する一瞬の閃光に見入る。あとは静かに、正確に鉄を切断していくのだ。
僕はふと、ここに来たのは場違いだったのではないだろうかと思った。
電話した時「今から行ってもいいか」と尋ねると冗談っぽく「いやー」と彼は言ったが、まんざらでもなかったのかもしれない。彼の持つノウハウはすでにもっと複雑な仕事をこなせるものになっているのだ。
そして、3時にはきれいなお姉さんがアイスコーヒーとマドレーヌを出してくれる。
鉄工所?麦茶と三笠まんじゅうじゃないぜ。
とにかく仕事の内容を伝えなければと、忙しい作業の合間に話をした。
僕がどう思おうと、やはり彼は真剣に話を聞いてくれた。そして的確なアドバイス。
そしてリーズナブルなプライス。
僕よりずっと年下なのになんていい男なんだ。
予想していたより安かったので、自分でやるつもりだった作業も追加料金を払って彼にしてもらうことにし、鉄に関してはもう心配ないだろうと思う。
あとは木工次第か。これで明日見積もりは出せる。
なぜだか大阪から帰る道はちょっとせつなかった。