マネするだけじゃだめー
2013 年 4 月 9 日 by SIGN
リートフェルトのRED&BLUEchairの破損箇所は背板の部分。一見「これどうやってついてるの?」と思わせる直角に対して斜めの平面。それがこの椅子の印象的なところでもあり、名前にもなっている赤と青の長方形が絶妙な角度で取り付けてある。
しかし、デザイン上最も理想的なのは厚みゼロではあるが現実的にはあり得ないので極限まで薄い板で作られている。それから生じる問題は強度と、それをどうやって取り付けるかだったと思う。
分解し、とりあえず汚れを洗いながら隅々まで観察した。たしかによく考えてある。
直角の角材に対し斜めに取り付けるために金物を使用してあった。この小さな真鍮性のナット、これがミソだ。破壊してみないとわからないナットの正体。知りたいからと破壊した人はいるだろうか。
そして板の材質や特殊な塗装が合わさって強度を出している。この塗装はすごい。
種類としてはイージーチェアでゆったりとした角度がついているが、これもイージーチェアにしたかったわけではないのだろう。平面に座るということはやはり見た目のイメージどおり座り心地も悪い。それを座面と背板の角度を大きく傾けること、それとひじ掛けをつけることにより、体重の分散を狙っている。深く腰掛け背板に体重をあずけ、アームに肘を掛けさらに足を前に投げ出す体勢で座らせることにより、イメージを裏切る座り心地となるのだ。まさに教科書どうりのバランスで。
もちろん直線と平面のデザインがまずありきだとは思うが、この座り心地の意外性を強調するための直線と平面にもなっている。
しかし数値的には教科書にものっていることで、ちょっと勉強した人なら何のことはない角度であり、構造も作り方も基礎の範囲。機械があれば塗装前まで多分一日で完成だろう。だがこの椅子のすごいところは、100年前のデザインであることなのだ。
僕らが目にする教科書や手引書のもちろんそれ以前であるし、電動による木工機械が発達する以前の加工法によるもので作られ、さらにこういったモダンなデザインが世界のどこにも存在しない時代、まさに常識はずれであったろうにも関わらずその後の工業デザインに大きな影響を与え続けて100年。いまだに愛され、またこれから学ぶこともできる貴重な教材となっている。
でも、家具もデザインも100年間何をやってきたんだ。
修理ができてとりあえず在庫と一緒に置いてある。
我が家にリートフェルトがあるよ、すげーな。
なんか神輿を思わせる風格すら感じます。
「イメージを裏切る座り心地」
なるほどオースチンミニの乗り込む前のイメージと実際乗ってみた時と似た驚きかも知れませんね。
「絶対見る価値がある、目茶目茶面白いから」と言われてハードルが上がり切って見た映画の肩すかし感や、ふらりと入ったお店の期待以上の内容に対する感動など、人の面白い所です。
そういうことも計算して作られたような椅子でした。
工場にあった端材で作られたという噂もありますが、最初の一脚から時を経て作り続けられるうちに、細部に対してかなり吟味された形跡があります。
「すごい椅子」であり続けるために。