ゲストハウスのミーティング用テーブル
W1100×D800×H700(ローテーブル時、H333)
材質:タモ(天板)、クスノキ(脚)
塗装:天然オイルワックス
ストーリー
「職人としてのイエスはどんな人だったんでしょうか。」
僕がこのテーブルを注文された依頼者に、会って初めてした質問だった。
「きっと職人としても優れていたに違いありません。」
その方の答えは疑いのないものだった。
その方と初めてあった頃、僕は友人から頼まれた家具の構想に頭を悩ませていた。友人はクリスチャンで、どうにかその家具に聖書からアイデアを取り込みたいと考えていた。
しかしそのハードルは予想以上に高く、いくら聖書を開いても、その答えは果てしなく遠く感じていた。
そんなとき、その方と出逢った。
その方は聖書の伝道活動をされていて、もちろんその用事でうちへ訪ねて来られたのだった。
自分で読み、自分で調べることに限界を感じ始めていたところに、詳しい人が現れたのだ。僕は、失礼なことだとは感じながらも、聖書に関する不躾な質問をその方にぶつけていった。
信仰が第一の関心であれば、もっと礼儀をわきまえた聞き方になったろうと思うが、とにかく仕事のために情報が欲しかった。
そんなことを言うと、その方はがっかりされるだろうか。いや、それはないような気がする。
どんな理由であれ、聖書を開き、知識を得ようとする人に対して、驚くほど誠実な方だったから。
僕がした質問に対し、いろいろ調べて資料を探してきてくださったり、聖書に書かれている言葉で説明してくださったりした。そこでの情報は、僕にとってはとても大きな収穫となった。
初めて会った日以来、ほぼ毎週訪ねてくださるようになり、しかし、聖書の話をする時もあれば、まったくしない日もあった。
僕がいれたコーヒーを飲みながら、作業中の家具を見ながら、なんのことはない世間話や、お互いの仕事の話をするほうがだんだん多くなってきた。1時間以上話すこともあれば、数分で帰られることも。僕はその中で、自分の家具について熱く語ることもあった。
別にその方に営業をしたつもりはなかったのだが、いつか作ってもらいたい、という話から、この度の正式なご注文へと話は進んでいった。
家具屋SIGNは、その方にとって伝道活動中の休憩所のようになっていたのかもしれない。
そしてそのご注文とは。
その方の家には母屋の裏に、日本・世界各地からの仲間が宿泊したり、またミーティングをしたりするためのゲストハウスがあり、そこで使用するミーティング用のテーブルを作って欲しいということだった。
使用しない時は脚を外して、ロフトへしまっておける収納性がデザインの条件だった。
また、その機能を生かして、短い長さの脚も用意し、母屋でのローテーブルとしての使用も考えてみた。ローテーブルとしての高さは、現在使用中のものと同じにし、延長用としても使える。
なんの装飾もないすかっとした天板は精密さ、正確さを重要視し、聖書、もしくは聖書に対する依頼者の誠実さをイメージした。
脚はSIGNのシンボルデザインをとり入れつつ、この方の職業に関係する「くつした」から、膝の関節や腿やふくらはぎの膨らみを、直線的にだがデザインしてみた。
この方にもらった資料によれば、イエスの時代にも鉋や旋盤があったようだ。そういうことからすれば、当時にも作り得たデザインだといえる。
そして、脚の位置は長方形の天板に対して四方に座られるということなので、少し中心よりにし、どの方向から座っても脚の間隔は同じになっている。長辺方向は脚が少し奥になるので、出入りが例えば車椅子でもしやすいように。
その脚が取り付けられる天板の反り止めには指じゃくりの加工がしてあり、ロフトへ持ち上げる時の持ち手にもなる。
納品の日、設置してすぐ、一番下の小学生の娘さんが、僕が依頼者にお手入れの説明等をしている時に、僕の正面に座って絵を描き始めた。その使い心地を確認するように。
さて、どうですか。
もちろん、彼女にもこのテーブルを使う権利はある。