初ペリカン購入で何か変わるか
2008 年 11 月 16 日 by SIGN
製作の行程の中で、僕はいつもデザインで苦しむ。
悩んでいる時は、ほんとに才能ないんじゃないかと思うくらい、自分が情けなくなることもある。
木工家なんだし、デザイナーじゃないんだし、そんなに悩まなくても、そんな風には考えられない。
オリジナルの家具を作っている以上、絶対に自分でその形は決めなければならない。それはこの仕事をする人はみなそうなのだが、自分の技量や知識の範囲で、もしくは過去の経験やスタイルによって決めてしまうことが多く、それに予算や手に入る材料なんかを考慮していくと、可能の範囲はせばめられ、迷うほどのことはなくなっていく。はずだ。
しかし僕にはできないことがある。
たまに、あなたの作る家具は何系、何風?と聞かれることがある。それはきっと北欧風とかカントリー風とか、デザイナー系とかアート系とかいう答えを期待して聞いているのだと思うのだが、もしそのとき僕の中でなにか言葉が浮かんだとしても、それを口にはしたくないという思いがある。まだまだ自分を限定したくないからである。
でもそれができる人は、見えた人は、そこから楽になれるんだと思う。
その尺度によって、迷えばそれに沿い、先人の作品に答えを求め、あとはしっかり作れたらオッケー、技術的に精進すればオッケー、業界で名前が売れたらオッケー、長く続けられたらオッケー。
でも僕は、自分の作るものが何かに似はじめたら、そのデザインを捨てたくなってくる。それが考えてる段階でも起こる。そしてもし、考えていたものが、すでに誰かがやっていることを知ってしまったときは、ものすごく悔しい。もしくは歯ぎしりしながらその人に憧れたりする。
僕がいつもデザインや図面を書く時に使っているのは、シャープペンシルか鉛筆である。別にこだわっているわけではないが、一番早い気がするからだ。
最近はパソコンで書く人が増えてきているが、僕にとっては遅い気がするし、頭の中で立体化するには紙と鉛筆が一番僕にとってはやりやすい方法に思えるのだ。
よく言うアナログ人間なのか、いや、デジタルはこの世にコンピュータが普及しはじめた頃から使っているし、アナログ派の人からすれば反対の部類に当てはめられるだろう。
ただ、今やってることはデジタルでは解決できないことだらけで、それに取り組むことが気に入ってしているのだから、やっぱり紙と鉛筆なのである。しかもシャープペンシルは中学の卒業祝いに、学校からもらったものを未だに愛用している。
しかしこう毎度行き詰まっていると何か変えてみたくなって、スケッチ用に万年筆を買ってみた。
今まで筆記具としての万年筆にずっと憧れてはいたが、字を書くこともあまりなく、また文章を書くとすると昔からワープロかパソコンで、書いたとしても鉛筆やボールペンの手軽さに勝るものはなく、結局手に入れるまでには至らなかった。
やっとその理由ができたのである。
といっても購入したのは、万年筆らしい万年筆ではなく、メーカーはドイツの老舗でモンブランと並んで有名なペリカンのものだが、これは子ども用の万年筆なのだ。名前はペリカノジュニア。
見た目はおもちゃみたいで、気品も高級感もなく書くぞという意気込みもない。しかしこれはドイツの小学生が最初の文字の練習に使うために開発されたものらしく、日本で言うところの書き方ペンなのだが、そこはさすがドイツペリカン社、書き味は滑らかでしっかりした本物なのだ。
万年筆を買ってみようと思い立ち、物色しに三省堂の文具売り場へ行ってみた。そこで国産の有名メーカーの1〜3万円クラスの万年筆を試し書きさせてもらって、やっぱり高くなればなるほど書き味は気持ちいいんだなと感じた。それで、販売員さんに用途とほこりっぽい工場で使用することを話し、書く環境として万年筆にとって大丈夫かと聞いてみたところ、そんなこと言われたのは初めてで、なんとも言えないとのこと。万年筆で絵を描く人は最近増えてきているので、スケッチを描くのに向いているのは探せばあるだろうし、汚れたりほこりが詰まればペン先を水で洗うか、持ってきてくれれば超音波洗浄機でクリーニングします、と。
そのとき多分僕は無意識にめんどくさそうな顔をしたのだろう、その販売員さんはもう一つ提案をしてくれた。安いので一度試してみて、使えそうだったらいいのを買われてはどうか。といって出してきてくれたのがこのペリカノジュニアだった。
本体はスケルトンのポリカーボネイト製。インクはカートリッジ式。線の太さは中字くらいの1種類。キャップにフックは付いていない。でもグリップ部にはラバーが巻いてあり、指の形に窪んでいて、そのとおりに握れば正しくペン先が紙に触れるようになっている。さすが書き方ペン。しかも名前シールが書き損じ用か4枚付いていて、それをスケルトンを生かして内部に貼るようになっているところがにくい。色はブルー、レッド、イエロー、グリーンの4色があり、僕はブルーを選んだ。
早速使ってみて、アイデアに何か影響があるかはまだわからないが、描く線の新鮮さにちょっと嬉しくなってくる。描き味も気持ちいい。安くてもこんなにいいものを使って勉強できるドイツの子は贅沢だなと思う。それは大人が子どもに対して、自分の立場で何を提供できるかを真剣に考えているから、それも企業としてできるところが素敵な国だと思う。
ざくっと工場のペン立てに突っ込み、描きたい時にガンガン使いたいのだから、気どった万年筆よりこいつが良かったのかもなどと思いつつ。