高さの変わるガラステーブル
W1000×D750×H400-750(5段階)
材質:ウォルナット、チェリー、ナラ、強化ガラス
塗装:天然オイル、ワックス
高さの変わるベンチ
W1200×D300×H450,550(2段階)
材質:ウォルナット、チェリー、ナラ
塗装:天然オイル、ワックス
ストーリー
僕を信じて、僕の作る家具を使う人が、そのたった一つの部分や機能だけを気に入ってくれるのだとしても、僕は必死でその家具のデザインをするし、難しい加工にも挑戦したい。
答が出るまで。
その女性の希望は、高さが変わること、だった。
いつもならきっと、そういう機能はリスクが大きいし、デザイン的にも制約が増すので、ゆるやかに説得してお断りするだろう。
可変機能は、素人目に分かりやすい付加機能で、メーカー側もそれをつけることでちょっとお得、と思わせたり価格をワンランク上げたりすることがある。
もちろんユーザーからの要望もあるだろうが、たいてい可変機能を口にするお客さんには家具への思いは薄く、デザインにもあまりこだわりがないことが多い。
しかし彼女の話を聞いていると、彼女はそうではないような気がしてきた。
ガラスのテーブルで高さが変わる、アクタスで売っているのがあって、それを友人が持っていて、いいなあと思ったんだけど何か違う。
木製の脚部とガラス天板、可変装置としての革製のベルトがポイントで、その三つの素材の絡み合いにとても感じるのだけど、全体のデザインが気に入らないのと、ベルトが友人のは切れてしまって、構造上の問題も感じる。
だけど、高さが変わる、ガラス越しにその構造が見える、たとえそんな機能を頻繁に使わなかったとしても、それができるという形に惹かれる、機能美は重要なポイント。
それに、誰も持っていない、世界にひとつの家具が欲しい。
面白い、やりましょう。
彼女がSIGNへ打ち合わせに来た日から1か月半、僕はずっと頭の中で形を妄想しては消し、いけるか、と思ってはスケッチし、まただめか、と思っては妄想し、スケッチし、いろんなパターンを何度も描き直し、いけるか、と思っては寸法をシミュレーションし、だめか、と思ってはスケッチに戻る。という作業を繰り返していた。
かなり苦しんだ。経済的にも苦しくなって、他の仕事もはさんだり。
写真で見せてもらった友人所有のテーブルというのが、シンプルな構造でありながらあまりにもリスキーなデザインだったため、まずその問題の解決策でなければならないという思い。
メカニカルでありながら有機的な動きをさせたいという思い。
鑑賞できる形、どこにもない形。
結局答が出ずに、煮詰まった頭である日、ふらっと僕はある友人に会いに行った。
造園もやっている植物屋を営んでいる友人だった。
僕は彼にその話をし、植物から何かヒントが得られないだろうかと持ちかけた。
彼に植物のいろんな性質について語ってもらう。またその店の植木などを眺めていた。
眺めながら彼の話を聞いていると、気になる言葉がいくつか出て来た。
奇数配列。花びらや葉のつき方は奇数配列であるものが多い。
螺旋配列。茎や枝につく葉は螺旋状に、上から見ると重なることなく生えている。また花はつぼみから螺旋をえがいて開く。
来た、いけるかも。
僕はそれを聞いて早々に工場へ戻り、今聞いたことをもとにスケッチしてみた。いくつかのパターンを描き連ねていく。そのなかのひとつをシミュレーションしてみる。
これでいこうと、図面に描いてみた。
高低差350、しかもその変化に対する接地点の移動は最小だ。できた。
それまで悶々としていた頭の中が、すっきりと透き通っていた。
あとはこれを図面どおりに加工できるかどうかだった。
複雑な加工も今回独自の組み立ても、意外なほどスムーズに進んだ。
デザインの苦労と比較するからだろうか、それとも少しは上達したか。
出来上がってみると、自分でも今まで見たことのない形のテーブルに少し見入っていた。
可変部分の操作感も悪くない。そして安定感もある。上からの加重によってより安定するように考えたからだ。
完成して、植物屋の友人が見に来てくれた。
「今までにもありそうやけど、見たことのない感じやなあ~」、と言っていたが、褒め言葉のつもりらしい。存在感ってこと?
そしてあわせてもう一つ頼まれていた、高さの変わるベンチ。
カウンターで使ったり、このテーブルで使ったり。ということで2通りの高さの調節ができるように。
こちらもちらっと複雑な可変装置を考えたが、人が乗ることに対する強度を考えると、この細長さでは無謀と判断し、対してダイナミックな調節方法とした。
がっちりした脚部に対照的な、曲面加工の座板。
実はこのデザインは、友人がテーブルを見に来た時に、となりのおばちゃんが大根とれたからと持って来てくれたので、よし、まな板の上の大根にしよう、と思い付いたのだった。
あのテーブルの苦悩からすると、なんと軽い、いや、なんとあざやかに決まってしまったのだ。こんなこともある。
このテーブルもベンチも、彼女はとても気に入ってくれた。
予想以上だと。
調節の仕方を説明すると、興味津々、自分でもやってもらう。意外とスムーズ。そうでしょう。
帰り際、彼女の甥っ子たちが訪ねて来て、僕が帰った後に、触りたがるのを必死で阻止し、何度かぶっとばし(お姿からは想像できないような方ですよ)、しているうちに、静かになったなと思ったら、2時間ほどこのベンチに座ってカウンターで遊んでいたそうだ。