杉の子ども用ベンチ
W1240×D320×H400 SH230
材質:吉野杉パネル
塗装:天然オイル、ワックス
ストーリー
いい仕事をさせていただくと、ああ、こんな仕事ばっかりして生きていけたらいいのに、なんて思うことがある。
知人の紹介で、奈良のとある幼稚園へベンチを納めさせていただいた。
以前、この幼稚園で40年近く使われてきたベンチを修理したことがあった。
鉄パイプのフレームに、ビニール張りのシート。パイプのフレームはペンキがところどころはがれ、シートと背もたれはガムテープであちこち補修されてはいたが、どこからか隙間から、中のウレタンが粉状になってこぼれ落ちてくる。
このシートと背もたれを、余ってた赤松の集成材を磨いて、角をすべて丸めて、オイル仕上げしたものに交換したのだった。
それを園長先生が気に入ってくださり、どうせなら、全部木製のベンチができないだろうかと相談を受けたのだ。
僕がどんなスタイルでものづくりをするかというのを、理解してくださった上での注文だった。
誰でもいいのではなく、指名されたのだ。
特にこうしてほしいという要望はなく、それだけに、僕には考えて作る責任ができた。
公立の幼稚園で、ベンチを買い替えるといっても予算はなく、とりあえず今期に10脚。それもなんとか。
ローコストで、シンプルで、工程もシンプルで、なおかつ、親しみやすいデザインと、安全性や、子どもが座るということに配慮した設計。
材質も、手触りや、見た目はもちろん、ほら、あの山から切って来た木だよ。
と言いたかったので、奈良と言えば吉野杉。
吉野杉を幅はぎのパネルにして販売している材木屋さんが知り合いにいたので、それを使うことにした。
杉なので重量も軽く、背もたれに彫り込んだ指じゃくりを前後で持てば、子ども二人で運ぶこともできる。
またこの指じゃくりは持ち上げると、ベンチそのものが内側へ少し回転し、指がはずれにくくなる。
もちろん座り心地もSIGNのことです、計算済み。
水平ではなく少し傾斜した座面に、さらに角度を付けた背もたれにより、子ども用にしてはななめだな、と思われるかもしれないが、背もたれを低くし、適正な角度で腰を保持してやれば、逆に背筋が伸び姿勢よく座れるはず。
そして、座面と背もたれ、そのほか部材接合部には空間や隙間ができないようなデザインを考えた。
隙間に手や足をつっこんだまま椅子が倒れないように。
などなど、簡単なベンチのように見えて、考えることはたくさんあったのだ。それは、子どもが座るというキーワードから溢れ出てくるイメージだった。
今回、コストをおさえるということも苦にならなかった。それはこのベンチにとって重要なポイントでもあった気がする。
さて、このベンチ、子どもたちの反応はいかに。
後日、園長先生や保護者の方々が大変喜んでくださっていると、この仕事を紹介してくれた知人が教えてくれた。
ああ、ちゃんと伝わったのだな。と、思える仕事はいいもんだ。しあわせ。