カメラショーケース
W1300×D320×H1730
材質:タモ、ガラス、ポリ合板
塗装:天然オイル、ワックス
写真撮影:松野幸一
ストーリー
僕は家具屋になる前、ずっと写真関係の仕事をしていた。
学生時代から好きだった旅の紀行写真、出雲の神々の取材、新聞社写真部でのデータベース管理、フリーのグラビアカメラマン、そして、写真専門学校の教員。
木工の道を進むと決めた今でも、写真は撮り続けたいと思っている。ただ、仕事として写真を撮るのは、もうやめたのだ。
なぜ、と問われるといつも、写真が好きだから、と答える。
僕の中ではもう、写真は追求するものではなく、自分がその世界に携わっていた時に培った価値観によれば、自分と自分を取り巻く世界を記録することにしか、写真の持つ意味が見出せなくなったからだ。
どんなに偉いカメラマンの仕事より、誰に見せるでもなく、日々日常を記録する、親が子供の成長を撮り続ける、スケッチブック代わりに記念写真を撮る、画面の中で家族が笑っている、友人達が自分を見つめている、何かが心を動かしたその光景にシャッターを切った、そこには、見え透いた欲などかけらもない、そんな写真の方が、僕には意味があるように思えるのだ。
それを、僕は人に写真を教えるという仕事の中で知った。
皮肉にも、プロのカメラマンを養成する学校で。
その矛盾を抱えたまま教壇に立つことは、嘘をつくことだった。
僕のような半人前の教員を、根気よく指導してくださった校長先生が、家具の注文をしてくれた。
学校の玄関に置く、カメラのショーケース。
写真をするものにとって、カメラは重要な道具である。
性能だけではない、何か通じるものを選びたいと思う。
有名なカメラマンが使用したカメラは憧れでもある。
学生達には、その憧れが原動力になることがある。
学生のために学校所蔵の機材を展示するためだと言われた。
いろんなデザインを考えてはみたが、結局、こんな感じになった。
学校、という言葉の中にあるノスタルジア。
そして、これを注文してくれた校長の撮る作品のイメージ。
ガラスを使った、はじめての収納家具。