オーディオラック K
W1300×D570×H1950
材質:ナラ(フレーム)、タモ集成材(収納部)
塗装:オイル、ワックス
ストーリー
「80年代ロックとフランス車のジオラマ」
それがこのオーディオラックのテーマだった。
しかしそれは、80年代ロックをイメージしたもの、フランス車をイメージしたものということではなくて、それに対する愛着や思い出、記憶といったものをどのようにしまっておくかということを形にしたかった。
それはオーディオラックであるから数々のオーディオ機器やテレビも収納される家具でありながら、これを依頼してくださったご夫妻の大事にされているものたちを陳列する展示台でもあるということ。
奥様が大事にされているのは「音楽を聞くこと」。
今では様々なジャンルの音楽を聞くようになり、最近はクラシック特にピアノが好きでよく聞いておられるようだが、実は若かりし頃から無類のロック好き。
青春時代の思い出を飾る80年代ロックは彼女にとってかけがえのないものであり、コンサートに足を運んだ洋楽アーティストの話をすれば途端にその目は輝きはじめる。
その思い出の数に比例して、CDのコレクションは増えていった。
今でも当時から活躍するアーティストが来日するとなれば血が騒ぎ、要所は良い席をおさえてコンサートへ行くという。
そしてご主人はというと「自動車好き」。
しかもフランス車が好きという偏愛の傾向があり、乗り継いできたフランス車はすべてマニュアルミッション。
その気持ちはよくわかる。車が好きだと言うのなら、やはりエンジンやシャシーまでしゃぶりつくすように楽しみたいと思うのが健全な男子であると僕も思う。スタイルだけじゃダメで、その車の性格まで愛そうと思うならやはりマニュアル。ダイレクトに車軸を感じたいのだ。
そんなご主人は外車のミニカーをコレクションされていて、それもこのオーディオラックに陳列したいとお考えだった。
そこで僕が考えたのは、それらを収納する部分の構造とは関係のない、分離したフレームを外周に作るというデザインだった。
収納棚はそのフレームの中で浮かんでいるように固定する。
限られた設置スペースからは逆にロスが生じるデザインではあるが、収納棚に手を伸ばす時に必ずそのフレームを越えねばならないという、使用の際の縛りに意味を持たせたかった。
そこに陳列するものは、CDであって、ミニカーであって、しかし「愛着や思い出」であるということ。そこに触れるためには境界を越えて少しだけ手を伸ばしてもらう。
デザインの打ち合わせの際、僕のアイデアを了解していただき、細部の寸法のご希望を聞いた。
実用面でのスペース確保のため、フレームとのクリアランスは最小限となったが、もっと大きく取っても面白かったと思う。
さて納品後、ちょっと物を収納してみたと奥様から写真が送られてきた。
ご夫婦でとても気に入っているとおっしゃっていた。とにかくそれが何より嬉しい。
「どこにもないもの」であると。
また、このオーディオラック掃除用のクリーナー(ハタキ?)を見つけて買ったとか。
「音が良くなったんじゃないの」「気のせいかな、木のせいかな」なんて二人で言ってるそうだ。
画面の中のボンジョビやミニカーたちと、それを収納するこのオーディオラックもこれからは同じように、お二人と。