おふくろへの椅子・回転アームチェア
W560×D600×H700 SH420
材質:チェリー
塗装:天然オイル、ワックス
ストーリー
親と子の立場というのは、いつごろから逆転するのだろう。
いつまでも親にとって子どもは子ども、とはいうが、子にとって絶対的な存在であった親も、子が世の中を冷静に理解するようになると、親を自分と同じ人間として評価するようになり、そこであらためて慕い、はたまた反発し、自分が歳をとるごとに親も老い、いつしか子が親の世話をするようになり、子が親のわがままを聞き、最後は子に抱きかかえられて、親は葬られる。
この椅子を注文してくれた渡部さんは、脚の悪くなったお母さんにプレゼントしたいのだと言った。
渡部さんからはいろいろ細かな注文があったが、やはり実際お母さんにお会いしたいと言うと、二人で工場を訪ねてくれた。
杖をつき、息子に手をひかれていながらも、僕に会うためにおしゃれをして。
自分専用の椅子をオーダーするという素晴らしいプレゼントを、息子から与えてもらい、心踊らせて来られたのであろう。
薪ストーブの前でいろいろと希望を聞いた。
立ち上がりやすいように少し高めのほうがいい。
立つ時に支えになるアームがほしい。
座面は回転し、クッションのいい布張りで。
そして、できるだけ軽く。
僕は材にチェリーを選んだ。
軽く、きめが細かく、ねばりがあり、手触りがあたたかい。
座面は厚めだが、長時間座っていても疲れないように堅めにした。
畳の座敷で使うと聞いていたので、脚の形状はこのようにした。
お母さんは気にいってくれるだろうか。
納品の日、渡部さんに電話すると、そばにお母さんがいたのだろう、電話口で、「椅子ができたって!」と伝える喜々とした渡部さんの声。
僕もお母さんが喜ぶ顔が目に浮かぶ。
しかし、納品した時、僕はお母さんにとって、息子の一部となっていた。
僕が作った椅子の 気に入らないところをばしばしぶつけてくる。
じゃあ作り直しましょうかというと、いや、これでいいという。
照れくさかったのだろうか、このプレゼントを喜びながらも、求めても求めたりない息子からの愛情を、
求め続けるのも親なのだろうか。
渡部さんは苦笑いしていた。
お母さんはずっと笑っていた。